建設業の2024年問題——時間外労働規制で職人の年収はどう変わる
- 建設業の時間外労働は2024年4月から罰則付き上限規制の対象となり、原則は月45時間・年360時間、特別条項でも年720時間が上限になった。
- 国土交通省は直轄工事を中心に週休2日を推進しており、休みが増える一方、日給制の職人は稼働日数減による手取り減少という課題に直面している。
- 山根一城は、残業代に依存しない年収設計として資格手当の積み上げと多能工化による単価アップという2つの経路を提案している。
「残業がなくなったら、手取りが減った——これ、どうすればいいんですかね」
先日、型枠大工として15年働いてきた40代の方からこんな相談を受けました。結論から申し上げると、建設業の2024年問題は職人の皆さんにとって、収入の作り方そのものを見直すきっかけだと僕は考えています。残業代というのは、いわば仮設の足場のようなもので、工事の間だけ収入を支えてくれる存在です。足場は外れる日が来ます。本設の柱、つまり残業に頼らない年収の土台を、今のうちに作っておく必要があると感じています。この記事では、時間外労働の上限規制の中身を公的な数字で押さえた上で、収入面での影響と、これからのキャリア戦略について、僕の相談現場での体感を交えてお話しします。
0. 結論——残業代前提の設計から抜け出す時期に来ている
建設業には長らく、時間外労働の上限規制の適用が猶予されてきた歴史があります。それが2024年4月1日から本格適用となり、いわゆる「2024年問題」として業界全体に影響を及ぼしています。この規制自体は労働者を守るための制度であり、歓迎すべきものだと僕は思っています。ただ、現場で長時間労働と残業代を前提に生活設計をしてきた職人の方にとっては、収入面でのインパクトが小さくないのも事実です。僕の体感値で言うと、相談に来られる方の中には「残業込みで年収を語っていた」ケースが少なくありません。この記事を読み終える頃には、規制の中身と、残業代に頼らない年収の作り方について、ご自身なりの見取り図を持てるようにしたいと思っています。
1. 2024年問題の中身——時間外労働の上限規制を数字で理解する
まず制度の中身を正確に押さえておきましょう。厚生労働省が公表している「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」によれば、時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間です。臨時的な特別の事情があって労使が合意した場合(特別条項)でも、年720時間以内、複数月平均80時間以内(休日労働を含む)、月100時間未満(休日労働を含む)、そして月45時間を超えられるのは年6回までという上限が罰則付きで定められています。
この上限規制自体は、大企業で2019年4月、中小企業で2020年4月から一般則として適用が始まっていました。建設業は工期や天候に左右される業界特性を踏まえ、5年間の猶予期間が設けられ、2024年4月からようやく本格適用となったという経緯です。つまり建設業の2024年問題は、他業種より5年遅れて同じルールに合わせにいった、という位置づけだと理解しておくと全体像がつかみやすいと思います。
| 区分 | 上限規制の適用開始 | 原則の上限 | 特別条項時の上限 |
|---|---|---|---|
| 建設業以外の一般則 | 2019年4月(大企業)/2020年4月(中小企業) | 月45時間・年360時間 | 年720時間、複数月平均80時間以内、月100時間未満 |
| 建設業 | 2024年4月〜 | 月45時間・年360時間 | 年720時間、複数月平均80時間以内、月100時間未満(災害の復旧・復興事業は一部規定が適用除外) |
災害の復旧・復興事業については、複数月平均80時間以内・月100時間未満という規定が適用除外になっている点も特徴です。ただしこれは例外であって、通常の現場で長時間労働を続けてよいという話ではありません。ここは誤解しやすいところなので、丁寧に押さえておいていただきたいと思います。
2. 収入への影響——残業代が生活設計に組み込まれていた現場のリアル
制度の趣旨は理解できても、現場で困るのは目の前の手取りです。冒頭でご紹介した型枠大工の方は、繁忙期に月60〜80時間ほどの残業をこなし、その分の残業代を含めて住宅ローンの返済計画を立てていたとおっしゃっていました。規制強化に伴って会社が残業時間の管理を厳格化した結果、残業代が減り、手取りが月に数万円単位で下がったそうです。
これは特別なケースではないと僕は考えています。日給制・時給制で働く職人の場合、基本給に相当する部分が薄く、残業代や休日出勤手当が収入の大きな割合を占めていることが珍しくありません。残業に頼った年収設計は、規制強化という外部要因一つで崩れてしまう脆さを持っているとも言えます。
一方で、これを悲観する必要はないとも思っています。会社側も上限規制への対応として、基本給や資格手当の見直し、月給制への移行を進めているところが増えてきました。相談の現場でも「残業代が減った分、資格手当で埋め合わせる制度ができた」という声を聞くようになっています。残業代というその場限りの収入から、資格や職能という積み上げ型の収入へ、収入の柱を移していく動きが業界全体で起きている、というのが僕の見立てです。
3. ケース比較——同じ残業減でも明暗が分かれた2人の職人
実際に相談を受けた2人の型枠大工の方を比較すると、この問題の本質が見えてきます。Aさんは日給制一本で、資格は特に取得しておらず、残業代込みで年収を組んでいました。規制強化後、残業が月平均で20時間ほど減り、年収は体感で40万円ほど下がったとおっしゃっていました。一方Bさんは同じ規制強化のタイミングで、以前から取得していた型枠支保工の技能講習と、勤務先の資格手当制度をうまく組み合わせ、残業減少分の大半を資格手当と単価交渉でカバーできたそうです。
2人の違いは、規制が始まる前から「残業代以外の収入源を持っていたかどうか」だけだったと僕は感じています。制度の変化そのものよりも、変化に備えていたかどうかが手取りの差を生んだ、というのが僕の体感です。この差は特別な才能の差ではなく、準備を始めるタイミングの差だと考えていただきたいと思います。
4. 週休2日制の広がりと日給制のジレンマ
もう一つ押さえておきたいのが週休2日制の広がりです。国土交通省は公共工事を中心に週休2日を確保した工事を推進しており、対象となる工事の比率は年々高まってきていると公表資料の中で示しています。長時間労働の是正という意味では望ましい方向性ですが、日給制の職人にとっては単純に「稼働日数が減る=年収が減る」という新しいジレンマを生んでいます。
ある鉄筋工事会社の社長と話した際、「週休2日を導入したら、若手には好評だったが、ベテランの日給制の職人から不満が出た」というお話を伺ったことがあります。休みが増えることは喜ばれる一方、その分の稼ぎをどう補うかという課題が同時に発生する、という構図です。これに対して、労務単価の引き上げや、日給制から月給制への移行で年収水準を維持しようとする会社も出てきています。
ここで皆さんに意識していただきたいのは、休みの日数だけでなく、単価や給与体系がどう見直されているかをセットで確認するという視点です。週休2日を掲げていても、単価の見直しが伴っていない会社では、結果的に収入が目減りしてしまうことがあります。転職や独立を検討する際の、隠れたチェックポイントだと思っておいてください。
5. よくある失敗とその対処——焦って動くと損をする
相談を受けていて感じるのは、収入減に焦って早まった判断をしてしまう方が一定数いるということです。よくある失敗の一つ目は、残業が減った瞬間に「じゃあ辞めて別の会社に行こう」と、給与体系を確認せずに転職してしまうケースです。転職先も同じように残業規制の影響を受けていれば、結局同じ問題を抱えることになります。転職前には、応募先の基本給水準と資格手当の有無を必ず確認していただきたいと思います。
二つ目の失敗は、資格さえ取れば自動的に手当がつくと思い込んでしまうことです。資格手当の金額や対象資格は会社ごとに制度が異なります。せっかく資格を取得しても、勤務先の手当制度に組み込まれていなければ収入には反映されません。資格取得を検討する段階で、自社の手当制度を一度総務や上司に確認しておくことを僕はおすすめしています。
三つ目は、独立を焦って決めてしまうケースです。残業代がなくなった収入減を、独立すれば一気に解決できると考える方もいますが、独立は資金計画や取引先の確保など、別の準備が必要になります。段階を飛ばさず、まずは今の勤務先でできる収入改善から着手することが、遠回りに見えて確実だと僕は考えています。
6. 今日からできる行動ステップ
ここまでの内容を踏まえて、実際に動き出すための手順を時間軸で整理します。まず今週中に、直近半年分の給与明細を見直し、基本給と残業代の比率を確認してください。残業代の比率が高いほど、規制強化の影響を受けやすい状態にあると判断できます。次に1ヶ月以内を目安に、自社の資格手当制度の有無と対象資格を人事や総務に確認します。制度がない場合は、施工管理技士や職長・安全衛生責任者など、業界で評価されやすい資格の取得計画を立てる段階に入ります。
そして3ヶ月以内を目安に、自分が担当できる工種を増やせないか、上司や現場責任者に相談してみることをおすすめします。多能工化は資格取得より早く動き出せる場合が多く、現場での必要度を高める即効性のある一手になり得ます。半年から1年のスパンでは、これらの積み上げを踏まえた上で、転職や独立という選択肢を検討する段階に移っていく、という流れが現実的だと僕は考えています。
結論
建設業の2024年問題は、規制強化という外からの変化に見えて、実は職人一人ひとりの年収の作り方を見直す機会でもあると僕は考えています。残業という仮設の足場から、資格と技術という本設の柱へ。この移行を早く始めた人ほど、これからの数年を安心して過ごせるのではないかと思っています。皆さんいかがでしたでしょうか。では今日もがんばりましょう。
よくある質問
Q. 建設業の残業規制はいつから始まったのですか?
建設業への時間外労働の上限規制は2024年4月1日から適用されています。労働基準法の上限規制自体は大企業で2019年4月、中小企業で2020年4月から始まっていましたが、建設業は業界の実情を踏まえて5年間の適用猶予が設けられていました。原則は月45時間・年360時間で、臨時的な事情があっても年720時間、複数月平均80時間以内、月100時間未満(いずれも休日労働を含む)という上限が罰則付きで課されています。
Q. 残業が減ると手取りは本当に減るのですか?
日給制で残業代を収入の柱にしてきた方ほど、規制強化後に手取りが減ったと感じやすい傾向はあると僕は体感しています。ただし収入減は避けられないものではなく、資格手当の積み上げや多能工化による単価アップ、月給制中心の会社への転職など、残業代以外の収入源を作る動きも同時に広がっています。減った分をどう埋めるかを早めに設計することが大切です。
Q. 週休2日制になったら日給制の職人はどうなりますか?
稼働日数が減る分、日給制のままだと年収が下がりやすいというのが実務上の課題です。国土交通省は公共工事を中心に週休2日を推進していますが、それに合わせて労務単価の見直しや月給制への移行を進める会社も増えてきています。転職や独立を検討する際は、休みの日数だけでなく、その会社が単価や給与体系をどう見直しているかを面接で確認することをおすすめします。
IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。