キャリア戦略2026-07-23監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

職人の多能工化戦略——資格を掛け合わせて年収と仕事の選択肢を広げる

この記事の要点

「じゃあ、鉄筋も型枠もできるようになったら、単価って上がりますか?」と、ある後輩に聞かれたことがあります。

僕の答えは、「上がる可能性は高いと考えていますが、順番と資格の選び方を間違えると、逆に評価が上がらないまま資格だけが増えてしまうこともある」というものでした。今日はこの「多能工化」というテーマについて、僕の体感値と独自ガイドの目安値を交えながら、できるだけ具体的にお話ししたいと思います。

1. 多能工化とは何か——「一つの技能」から「掛け合わせ」への発想転換

多能工化というのは、一つの技能を突き詰めるだけでなく、関連する技能や資格を複数持ち、現場でいくつもの役割を担えるようにしていく働き方のことだと僕は理解しています。国土交通省が進めているi-Constructionや建設業の生産性向上に関する施策のなかでも、多能工化は担い手の確保・現場の生産性向上の手段の一つとして位置づけられており、決して個人が勝手に思いついた概念ではありません。

身近な比喩で言うと、料理人が「揚げ物専門」から「揚げ物も出汁も取れる人」になるようなイメージに近いと僕は考えています。専門性を捨てるわけではなく、専門性の上に、隣接するできることを積んでいく発想です。建設キャリアアップシステム(CCUS)に登録し、自分の経験や資格を記録として積み上げていく仕組みも、この多能工化の土台になる制度だと僕は捉えています。

もう一つ例を挙げると、塗装を専門にしていた職人が、防水施工の技能を組み合わせるケースもよく見かけます。塗装と防水は工程として隣り合っていることが多く、雨漏り補修や外壁改修の現場では「両方できる人」がいると工程の切り替えがスムーズになるため、元請けからの評価が上がりやすいと僕は感じています。

2. なぜ今、多能工化が「稼げる選択」になっているのか

別の記事でも触れましたが、建設業界は今、若手の担い手不足という構造的な変化のなかにあります。厚生労働省の賃金構造基本統計調査などを見ても、建設業の技能職は他産業と比べて年齢構成が高めに出る傾向があり、現場で複数の役割を担える人材への需要は、僕の体感値としても年々強まっているように感じます。

ここで大事なのは、数字を単発で見ないことだと僕は思っています。たとえば「資格を1つ増やしたら日給が上がる」という話だけを聞くと、資格取得がゴールのように見えてしまいますが、実際に現場で単価や配置に反映されるのは、資格・実務経験・その資格が現場でどれだけ使われているかの掛け合わせです。以下は、あくまで独自ガイドの目安値として、単一技能の職人と複数資格を持つ職人の現場での扱われ方の違いをまとめたものです。

比較の軸単一技能が中心の職人関連資格を掛け合わせた職人
配置の優先度(現場の声・目安)専門工程のみで配置されやすい工程間の穴を埋める役として重宝されやすい
閑散期の稼働(目安)工程が空くと稼働が下がりやすい別工程に回れるため稼働が保たれやすい
独立・一人親方後の受注(目安)工程が限られる分、依頼の種類も限られやすい元請けからの相談窓口になりやすい

この表はあくまで僕が現場で聞いてきた声や、独自ガイドとしての目安値であり、公的な調査結果そのものではありません。ただ、比較の軸を「誰が」「どの場面で」評価しているのかを分けて見ないと、数字だけが独り歩きしてしまうと僕は考えています。この傾向自体は、担い手不足という構造変化とも整合的だと感じています。

3. 職種別の掛け合わせパターン——目安値で見る組み合わせ例

多能工化と言っても、何でも手を広げればいいわけではないと僕は考えています。むしろ、今持っている技能と地続きで、現場で「あると助かる」と言われる組み合わせを選ぶことが大事です。たとえば型枠大工であれば、玉掛けや小型移動式クレーンの技能講習を組み合わせることで、資材の搬入・据え付けまで自分で対応できる場面が増えます。鉄筋工であれば、コンクリート技士や施工管理の基礎知識を組み合わせることで、単に「組む人」から「品質を説明できる人」に立場が変わっていく、というのが僕の見てきた一つのパターンです。

もう一例として、配管工が防水施工の知識を組み合わせるパターンもあります。給排水の配管周りは、防水処理と隣接する工程であることが多く、両方に対応できる職人がいると、別業者への引き渡しにかかる調整の手間が減るため、元請けからは「工程が読みやすくなる」という声が上がりやすいと僕は感じています。

十数年前、僕がまだ現場に近い立場で仕事をしていた頃、型枠を専門にしていたある先輩が、玉掛けと職長教育を追加で取ったことで、元請けから直接「次の工程も見てくれないか」と声をかけられるようになった場面を見たことがあります。資格そのものよりも、資格を取った後にどう振る舞ったかが評価につながっていたように、僕には見えました。

4. 資格取得の順番と学習時間の目安

順番については、僕は次のような考え方を目安にしています。まず、今の技能に直結する資格(技能検定など)を固める。次に、現場での役割を広げる資格(玉掛け・職長・安全衛生責任者教育など)を取る。最後に、管理側に近い資格(施工管理技士など)を検討する、という三段階です。もちろんこれは絶対の順番ではなく、会社の方針や現場の需要によって前後することもあると考えています。

学習時間についても、あくまで独自ガイドの目安値としてお伝えします。技能講習系(玉掛け・小型移動式クレーンなど)は数日から1か月程度、技能検定など試験を伴うものは半年から1年程度、施工管理技士のような国家資格になると実務経験の要件も含めて数年単位で考える必要があります。この記事では技能講習・技能検定レベルの掛け合わせを中心に想定しています。

順番を間違えると、僕の体感値では「資格だけが先に増えて、実務がついていかない」という状態になりやすいと感じています。たとえば管理側の資格を先に取ってしまい、現場での実務経験が浅いままだと、資格を持っていても現場からの信頼にはつながりにくいことがあります。まず現場で「使える手」を固めてから、次の役割に広げるという順番を、僕は基本形として大事にしています。

5. 今日からできる実務ステップ——棚卸し・整理・申請

ここからは、今日から実際に手をつけられる範囲でお話しします。僕が現場の方にお伝えしている手順は、大きく3つです。

  1. ①CCUS(建設キャリアアップシステム)などに、これまでの経験・資格を登録し、自分の技能を棚卸しする。抜けている記録があれば、会社や元請けに確認しながら整えることをおすすめします。所要時間の目安は、初回登録であれば数時間から1日程度です。
  2. ②棚卸しした経験のなかで、今の技能と地続きで需要がありそうな資格を1つに絞る。欲張って複数同時に手を広げると、どれも実務に結びつかないまま資格だけが増えるということが起きやすいと僕は感じています。
  3. ③資格取得の計画を、会社や上司に相談してから動く。会社によっては受講費用の補助や、資格取得後の手当制度があることも少なくありません。個人で先に動いてしまうと、後から手当の対象外になってしまうケースもあるため、順番としては先に相談することを目安にしています。

この3段階は、資金や時間をかけずに今日から始められる部分(①の棚卸し)と、数か月単位で動く部分(②③)が混在しています。目安として、①は今日から1週間以内、②の資格選定は1か月程度、③の会社への相談から実際の受講開始までは1〜3か月程度を見ておくと無理がないと僕は考えています。まずは①だけでも進めてみることを、おすすめしたいと思います。

6. よくある失敗と対処——資格だけ増えて評価が変わらないケース

多能工化を目指す方からよく相談されるのが、「資格を取ったのに、扱いが変わらない」という悩みです。僕の体感値では、この背景にはいくつかのパターンがあります。

一つ目は、現場の需要とズレた資格を選んでしまうケースです。自分が興味のある資格を優先してしまい、今の会社や地域の現場で本当に求められている組み合わせになっていない場合、資格があっても配置に反映されにくいことがあります。二つ目は、資格取得後に会社へ報告・申請していないケースです。資格を取ったこと自体を会社が把握していなければ、手当や配置の判断材料にもなりません。三つ目は、実務経験が薄いまま資格だけを積み重ねてしまうケースです。資格はあくまで「できる可能性がある」ことの証明であり、現場での実績が伴っていないと、元請けや会社からの信頼にはつながりにくいと僕は考えています。

ここで、対照的な二人のケースを紹介したいと思います。Aさんは、玉掛けと職長教育を取得した後、すぐに会社へ報告し、CCUSの記録も更新しました。その結果、半年ほどで別工程への配置が増え、稼働日数が安定したという声を聞きました。一方のBさんは、興味本位で施工管理系の資格を先に取ったものの、実務経験が伴っていなかったため、資格を取った直後は特に扱いが変わらず、本人も「取っただけで終わってしまった」と振り返っていました。この二人の違いは、資格の種類そのものよりも、報告のタイミングと実務経験の順番にあったと僕は見ています。

対処としては、資格取得の前に「この資格は今の現場で誰が困っている場面を助けるものか」を一度自分に問いかけてみることを、僕はおすすめしています。そのうえで、取得後は必ず会社に報告し、CCUSなどの記録にも反映させておくことが、後々の評価につながりやすいと考えています。

7.(結論)多能工化は「保険」であり「攻め」でもある

多能工化というのは、僕の理解では、一つの技能だけに依存するリスクを下げる「保険」としての側面と、現場での役割や単価を広げていく「攻め」としての側面の、両方を持った戦略だと思っています。若手の担い手が減っていくという構造変化のなかで、複数の役割を担える人材への需要は、僕の体感値としても強まっていく方向にあると感じています。

ただし、資格を増やすことそのものが目的になってしまうと、本末転倒になりかねません。今の技能と地続きの組み合わせを選び、会社に相談しながら一歩ずつ進めていくことが、遠回りのようで、実は一番早い道だと僕は考えています。AさんとBさんの違いを分けたのも、資格の種類ではなく、順番と報告というひと手間だったと僕は改めて感じています。

皆さんいかがでしたでしょうか。今の自分の技能に、次にどんな一手を掛け合わせるか、一度棚卸しから始めてみるのもいいのではないかと思います。それでは今日もがんばりましょう。

よくある質問

Q. 多能工化にはどのくらいの期間がかかりますか?

資格の種類によって大きく異なります。独自ガイドの目安では、技能検定など試験を伴う資格を1つ追加するのに半年から1年程度、玉掛けや小型移動式クレーンなどの技能講習であれば数日から1か月程度が目安です。実務経験の蓄積を含めると、掛け合わせが現場で評価されるまでには1〜2年ほど見ておくと無理がないと考えています。

Q. 多能工化すると本当に年収は上がるのですか?

資格を増やすこと自体が収入を直接保証するわけではありません。ただ独自ガイドの目安では、複数資格を持つ職人は人員配置の優先度が上がり、結果として稼働日数や単価交渉の材料が増える傾向があるという声が現場では聞かれます。資格取得後に会社へ申請し、手当や配置に反映してもらう一手間が前提になります。

Q. 何から手をつければいいですか?

まずは建設キャリアアップシステム(CCUS)などを使い、自分の経験と資格を棚卸しすることから始めるのがおすすめです。そのうえで、今の技能と組み合わせたときに現場で需要が見込める資格を1つ選び、会社に相談しながら取得計画を立てるという順番が、独自ガイドで想定している基本の流れです。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

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